ビジネスニュース 2024年04月18日11:21

第83回 「エルニーニョ現象がもたらす国や企業活動への影響」

南米太平洋岸赤道域の海水温が上昇するエルニーニョ現象の影響から、タイを始めとする東南アジア諸国の農業に危機的な動きが生じている。タイではコメの収穫量が落ち込む公算で、昨年、輸出量で世界第2位に復帰したのも束の間、わずか1年で3位転落が濃厚だ。他の国々でも総じて農産物の生育に深刻な影響が及ぶなど農業への被害は計り知れない。一方、連日にわたって猛暑が続くことから、タイ国内では冷たい飲料の売れ行きがうなぎ上り。今年だけで5億米ドル(約750億円)の新規市場が創出されると見られている。さまざまな思惑が錯綜しながら、今年の酷暑は5月初めまで続く可能性がある。

第83回	「エルニーニョ現象がもたらす国や企業活動への影響」

タイ気象台によると、タイのダムなどの主な貯水施設の平均貯水率は3月26日現在62%。主要なダムである西部カンチャナブリー県のワチラロンコンダム(貯水量約88億立法メートル)で77%、北部ターク県のプミポンダム(同134億立法メートル)で57%と直ちに水不足とは言えないが、これまで同様に今後も降雨が少なかった場合、農作業も始まって一気に水不足となる公算があるという。


 干ばつ被害はタイにある総農地約1980万ヘクタール(日本の4.3倍)のうち、最大で13.3%にあたる264万ヘクタールに及ぶと農業・協同組合省では見ている。これにより、タイの主要な農産品であるコメやサトウキビ、果樹などの生産に影響が出る見通しだ。タイの昨年のコメの年間収穫量は約3300万トン。このうち最大で10%超の350万トンが減ると同省は読む。コメの輸出量も昨年の880万トンから10数%減の800万トン割れはもはや共通認識となっている。


 農産物の不作は所得の少ない農家の債務拡大に直結する。同省の試算によると、1ライ(約1600平方メートル)当たりの平均減収額は最も少ないコメ農家でも1000バーツ(約4200円)。ドリアン農家だと2万2000バーツ、アブラヤシ農家で3500バーツ、天然ゴム農家で3300バーツとなっている。注目すべきは、その累積額だ。コメ農家のそれは30万バーツ、天然ゴム農家で27万バーツ、アブラヤシ農家で26万バーツ、ドリアン農家で14万バーツと年収にも匹敵する。農家全体の累積債務は約12兆バーツにも上る。


 他の東南アジア諸国も同様だ。中でも域内最多の人口を擁するインドネシアでは、昨年のコメ不作から輸入で急場をしのいできたものの、今年は最盛期を迎える3~4月になっても収穫量が回復しないことから政府関係者は頭を抱える。4月半ばのラマダン(断食)明けの休暇時期にコメが不足すれば、治安問題にも発展しかねない。エルニーニョ現象が食糧安全保障問題に直結している。


 一方で、干ばつによる酷暑をビジネスにつなげようという動きもある。昨年来、タイでは3~5月期の乾季の気温が高く、冷たい飲料の売れ行きが急上昇している。市場関係者によると、タイの飲料市場は推定160~170億米ドル(約2兆4000~6000億円)。ここ数年間の成長率は平均3%に達すると見られ、今年はそれ以上の数値が期待されるという。このため、メーカー各社とも新製品を投入するなど売上アップに必死だ。


 このほか、もう一つ懸念がある。今年前半まで続くエルニーニョ現象に続いて、後半からは赤道海域の海水温が下がるラニーニャ現象が起こると予測する気象関係者も少なくない。そうなると、干ばつから一転、洪水被害が発生する可能性が高まる。(つづく)

 

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