企業紹介 2026年09月24日17:13

山本金属製作所がベトナムで描く未来の生産ライン

労働集約型の製造業が集積するベトナムで、高精度加工の新たな姿を追求する日系企業がある。山本金属グループ唯一の海外拠点、Yamamoto Metal Precision Vietnamだ

山本金属製作所がベトナムで描く未来の生産ライン

加工技術と自動化を競争力に

 Yamamoto Metal Precision Vietnamは、加工事業と製造ソリューション事業を手掛ける。後者は、機械加工を行う顧客に対し、製造現場が抱える課題の解決を支援する。現在は加工事業を主力とする一方、今後は製造ソリューション事業をさらに強化し、新たな収益の柱へ育てていく考えだ。

 加工事業では、日本本社が強みとする「削る」「磨く」という二つの加工技術を軸に展開する。特徴的なのは、量産化が決まった時点で、見積もり段階から生産ラインの自動化を見据えて工程を設計することだ。

 「人がワークを取り付けて加工する工程と、自動化を前提にした工程では、設計そのものが違います」(福井氏)

 同社が採用するのは、専用機による大量生産型の自動化ではなく、多品種・小ロット生産にも対応できる、産業用ロボットを活用した柔軟な自動化だ。ロボットシステムは日本本社がシステムインテグレーターとして設計・構築し、その仕組みをベトナムへ展開している。

 もちろん、ロボット投資の負担は決して軽くない。福井氏は、安価な人件費を武器とする企業と価格だけで競うことは難しいと指摘する。そのうえで、高精度加工を自動化し、効率よく安定して生産できる体制こそが同社の競争力だと強調する。その強みを生かし、医療機器の検査装置や半導体製造装置、油圧ポンプなどに用いられるコア部品を数多く手掛けている。

技術・技能を数値へ変えるセンシング技術

 自動化・無人運転の導入が進む中、新たな課題として浮かび上がっているのが、加工異常をいかに早く検知し、不良品の発生を防ぐかだ。工具の折損などが発生しても、人の目が届かなければ、そのまま不良品を作り続けてしまう恐れがある。

 「自動化そのものはそれほど難しい話ではありません。本当に難しいのは、無人で品質を安定させながら生産を続けることです」

 こうした課題に応えるために開発したのが、センシングシステム「MULTI INTELLIGENCE®(マルチインテリジェンス)」だ。センサとソフトウェアを組み合わせ、マシニングセンタでは治具、旋盤では刃物の近くにセンサを設置する。加工時に発生する物理現象を取得し、無線で外部PCへ送信する。異常を検知するとPCと工作機械のCNCが通信し、機械へ停止信号を送ることで、不良品の発生を未然に防ぐ仕組みだ。

 「b-series」「i-Stir」など複数のハードウェアをそろえるのは、検知対象となる加工異常や要求精度に応じて使い分けるためだ。同社が重視するのは、加工点に極力近い位置で物理現象をセンシングすることにある。こうした発想は、福井氏自身も生産現場で身をもって学んできた。2010年の入社当時、生産ラインで先輩からまず教わったのは、「加工中の音を聞いておけ」「切りくずの色を見ておけ」という現場の基本だった。

 「3年ほど経験すると、その意味が分かるようになりますが、そこまで到達するには時間がかかります。技能継承という観点からも、感覚ではなく数値で示した方が分かりやすいのではないかと考えました」

 こうした現場で培われた経験が、職人の技能を数値化・可視化する同社の開発思想につながっている。

経営理念が導いたベトナム進出

 山本金属製作所がベトナムへ進出したのは2020年。ソリューション事業の海外展開を見据え、ASEAN各国を検討する中で、最終的に進出先として選んだのがベトナムだった。その理由について福井氏は、同社の経営理念との親和性を挙げる。

 同社が掲げるのは「未見の我の開拓」。自らの成長に挑戦する人を評価し、その挑戦を後押しする理念だ。

 「自分自身の成長は自分の責任で取り組むものだという考え方です。自らチャレンジする人を、山本金属グループでは高く評価します。そうした姿勢に共感し、実践してくれる人がベトナムには多いと感じています」

 実際に福井氏は、ベトナム人スタッフについて「真面目で優秀な人が多い」と話す。経営理念への共感を土台に事業を進められていることが、組織づくりにもつながっている。

 ベトナム法人が本格的に始動したのは2021年。まず取り組んだのは、山本金属という企業の考え方や価値観を丁寧に伝えることだった。

 従業員数は約20人。福井氏は、少人数だからこそ一人ひとりの待遇をできるだけ高い水準で維持したいと語る。採用で重視するのも、技術力だけではない。

 「素直であること、そして当社の経営理念に共感し、自らチャレンジできる人かどうか。面接では、その点を必ず確認しています」

 中核メンバーの多くは、日本で数年間勤務した後、ベトナム法人の立ち上げに合わせて帰国したスタッフだ。日本で培った経験や価値観を持ち帰ったメンバーが、現地組織の土台を支えている。

展示会から広がる新たな商談

 東南アジアでの展示会活動で、福井氏の印象に強く残っているのが、2022年に初めて訪れた「FBCものづくり商談会」だ。当時は出展社ではなくゲストとして会場を訪れていたが、バイヤーブースで日本企業の担当者と商談し、それが現在も続く主要顧客との取引につながった。この経験を機に、展示会を新規顧客との接点として積極的に活用するようになった。

 そうした中、2026年9月に開催される「FBCアセアンものづくり商談会」では、ソリューション事業ではなく加工事業を前面に打ち出す。中心となるのは、同社が強みとする摩擦攪拌接合(FSW)技術だ。会場では、FSWによる接合サンプルを数多く展示し、その特長を紹介する。

 FSWは、マシニングセンタで接合できる工法で切削と接合を一工程で行えるため、従来のろう付けなどの工法に比べて工程を削減できる。また、母材同士を直接接合することから接合部の信頼性が高く、従来の工法で防ぐことができなかったリーク不良のリスク低減にもつながる。現在はEV関連での活用に加え、熱マネジメント分野への展開も進みつつある。

 「AIサーバー向けの冷却モジュールを開発している企業などからも、お問い合わせをいただいています」

 福井氏は、日本国内で培われてきたセンシング技術やFSW関連のソリューションが、今後は段階的にベトナムにも広がっていくとみている。

 今年のFBCアセアンでも、新たな顧客との出会いを通じて加工事業の拡大につなげたい考えだ。

ベトナムからASEAN市場へ

 同社は技術基盤の強化に向けた産学連携にも力を入れる。現在はハノイ工科大学、大阪大学、山本金属製作所、Yamamoto Metal Precision Vietnamの4者で、FSWに関する共同研究を進めている。

 ベトナム法人は、加工とソリューションの両面で、ASEAN展開の中核拠点に位置付けられている。福井氏は、今後5年、10年を見据え、「機械加工にイノベーションを起こす」というグループ共通のスローガンのもと、ベトナムの製造業にどのような価値を提供できるかを常に考えていると語る。その具体策の一つが、自社工場で「YAMAMOTOの目指す未来の生産ライン」を形にする取り組みだ。

 最後に、福井氏はFBCアセアン来場者へ向け、同社の強みをこう語った。

 「加工事業で最も自信を持っているのは、論理的な品質管理と、お客様とのコミュニケーションです。私自身がお客様との窓口を担当しており、安心してお任せいただける丁寧な対応を常に心掛けています」

 加工技術とソリューションを両輪に、ベトナムからASEAN市場へ。技術・技能の「見える化」が、未来の生産ラインづくりへとつながっていく。

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