ビジネスニュース 2026年04月21日00:18

日越金型クラブ主催「第2回ベトナム金型グランプリ」が開催

日越金型クラブ主催「第2回ベトナム金型グランプリ」が開催

金型教育は工業化の核心へ ── 学生が挑んだ実務に近い設計課題

ベトナムの製造業は、輸出拠点としての存在感を高めながら、産業基盤をより厚みのあるものへと育てる段階に入っている。完成品や部品の生産能力が拡充するなかで、設計や金型といった基盤技術を担う人材の育成が、成長を支える重要なテーマとして意識され始めた。日越金型クラブが主催する「ベトナム金型グランプリ」は、こうした産業高度化を見据えた取り組みの一つとして企画された。技能の習得にとどまらず、付加価値を生み出す産業構造を支える人材育成の場として、その役割が広がっている。

日越金型クラブ 会長 眞庭 秀也 氏

 

産業の現場を見据えた競技設計

日越金型クラブが主催する「金型グランプリ」は、学生に金型製作の現場における実践的な経験を提供することを目的とした教育イベントです。2024年に初めて開催されたこの大会は、学生に金型設計に携わる機会を提供することで、学生コミュニティや教育機関の間で金型業界への情熱を呼び起こす重要な役割を果たしてきました。

第2回となる今大会はさらに一歩踏み込み、学生が実際に金型を製作し、完成品を仕上げるまで規模を拡大したことが大きな見どころとなりました。競技は「プラスチック金型部門」と「プレス金型部門」に分かれ、学生には製品図面から金型のコンセプト、設計、加工、組立、さらには量産時の安定性に至るまでの一貫した思考が求められました。評価は、設計の完成度だけでなく、後工程や実際の生産環境を予測する学生の能力にも基づいて行われました。

第2回ベトナム金型グランプリ - 開催概要

  • 開催日: 2025年10月30日(木)

  • 時間: 9:00 - 17:00

  • 会場: ハノイ工科大学 C7ホール

  • 主催: 日越金型クラブ、ベトナム hỗ trợ 産業協会 (VASI)

  • 参加大学: ダナン工科大学、ハノイ工科大学、ハノイ地質鉱山大学、ハノイ工業大学、リータイトー・イノベーション・カレッジ、交通運輸技術大学、ホーチミン市工業大学

  • 製作課題:

    • プラスチック金型部門: ゴルフマーカー、ゴルフティー

    • プレス金型部門: ゴルフフォーク

  • 課題協力: 日本金型工業会

重要なのは、候補者が「なぜその特定の構造を選択したのか」を説明できるかどうかでした。図面の正確さや基礎知識は必須の前提条件ですが、鍵となったのは、加工性、メンテナンス性、量産時におけるリスクをどのように捉え、どの段階でそれらの決定を下したかという点です。その思考プロセスを明確に言語化する能力が、最終的な評価を左右しました。

学生たちが設計と加工におけるアイデアや創意工夫を発表 

金型製造業は極めて重要であるにもかかわらず、若い世代にはまだ広く知られていません。だからこそ、この大会は、これまで金型業界に触れる機会が少なかった次世代に対し、製造工程を直接体験する機会を提供することに特に注力しました。金型グランプリは、金型の役割と魅力を直接体験する機会を提供することで、有能な人材の裾野を広げると同時に、日越両国の金型産業の持続的な発展に寄여することを目的としています。

プラスチック金型部門: 試作を重ねた設計と判断

プラスチック金型部門の課題製品は、「ゴルフマーカー」と「ゴルフティー」でした。形状は比較的シンプルですが、寸法精度と外観品質のバランスが求められ、設計上の思考と意思決定の積み重ねが最終製品に直接影響するという難しさがあります。各大学のチームは、それぞれ異なるアプローチでこれらの条件に応えました。

プラスチック金型部門の課題:ゴルフマーカーとゴルフティー 

ダナン工科大学から参加した2チームは、技術的な創意工夫を凝らしました。DUT-HIチームは、2枚構成の金型構造に2段階の型抜き機構を組み合わせることで、芯の精度と耐久性を維持しながら、ゴルフティー特有のくぼみ(アンダーカット)を効果的に処理しました。さらに、PPとPOMという異なる材料を同一金型内で成形するため、樹脂の流れを切り替える「OFF-ON流動システム」を導入し、同一サイクル内での複数部品成形を実現しました。同大学のもう一つのチーム、DUT-2DQLは、POM樹脂を用いた2枚構成の金型を設計しました。3Dプリンティング技術を活用して型キャビティを製作し、最適な冷却システムを採用することで、熱伝達効率の向上と冷却時間の短縮を図りました。

ダナン工科大学のDUT-HIチームが第1位(優勝)に輝きました。

ハノイ工科大学のSME JOINT LABチームは、2個取りの射出成形を前提とし、優れた外観品質と設計公差の遵守を両立させた金型を設計しました。構造をシンプルに保つことでコスト要因も考慮されており、住友製50トン射出成形機への取り付けを目標としています。ハノイ工業大学のSMAE 2チームは、双葉電子工業(FUTABA)製の2枚構成モールドベースを使用し、交換可能なインサート構造を採用することで、短期間での設計、高い組立精度、および低コストを実現しました。加工面では、EDM(放電加工)機を使用して±0.02 mmの精度を達成し、精密な嵌合(かんごう)を確保しました。

ハノイ工科大学の SME Joint Lab チームが第2位(準優勝)に輝きました。

また、リ・タイ・トー・イノベーション・カレッジの LIC-MoldRise チームは、製品図面に基づいた高精度な射出成形金型を設計しました。彼らは、POM樹脂の射出成形において、量産性、耐久性、精度、そして外観品質を確保するために金型構造を最適化しました。ホーチミン市工業大学の DHCN-HCM チームは、金型構造、ゲート位置、個取り数などを綿密に計算したレイアウトを作成し、標準的な金型構造を採用しました。製品の表面デザインを自由に変更できたため、彼らは大学のロゴを使用しました。交通運輸技術大学の CTM73-UTT チームは、コンパクトでシンプルな構造ながら、精度と耐久性を確保し、同時に操作の容易さも考慮した射出成形金型を設計しました。冷却システム、エジェクタ機構、および樹脂流路を合理的に配置することで、離型性を向上させ、外観品質と金型の安定性の両立を達成しました。

各チームのアプローチに共通していたのは、試作を通じて設計と実際の成形結果を比較するという、建設的な評価プロセスです。彼らは射出成形時のバリ、樹脂の収縮、金型強度といったあらゆる要素を細かく検証し、理論と実践を絶えず統合することで最適解に近づきました。こうした経験の積み重ねは、学生たちの視点を、単なる「作る」ことから、製造工程における「思考と判断」へと広げることにつながりました。

プレス金型部門:設計および量産プロセス

ハノイ工科大学およびハノイ工業大学から計3チームがプレス金型部門に参加しました。課題製品は「ゴルフフォーク」(グリーン上のボールマークを修復する道具)です。小さな部品ではありますが、プロジェクトの成否は、材料の特性や量産時における工程設計の質に直接左右されます。各チームは、順送金型の使用を前提とし、材料利用率の向上と工程の安定化に焦点を当てて取り組みました

プレス金型部門の課題:ゴルフフォーク

ハノイ工科大学の BKAD チームは、限られた設備環境の中で、設計から製造、テストまでの全工程を完遂し、自らのアイデアを実際の成形品へと具現化しました。金型設計においては、構造の簡素化と材料コストの削減に注力し、同時に持続可能な生産を目指しました。製造および組立の過程では、寸法精度や平行度、鋳造過程における亀裂やバリといった課題に直面しましたが、トライアンドエラー(試行錯誤)を通じてこれらを解決しました。これは、設計能力だけでなく、現場での判断力やチームワークが品質を決定づける重要な要素であることを明確に示しています。

一方、ハノイ工業大学の機械・電子工学部からも2チームが参加しました。IMAE-MT011 チームは、自動供給と工程連結を前提に、小型機械部品の量産を想定した順送金型を構想しました。この設計は、プロセスの安定性と精度の向上に重点を置き、コスト削減と自動化を目指したものです。

同大学の DCN-SMAE1 チームは、小型部品の量産用順送金型を設計・製作しました。自動供給と工程連結を前提とし、生産性と精度のバランス、工程順序の最適化、設計段階でのプレス工程の設定を目標としました。複雑な形状の加工と精度確保には、ワイヤ放電加工(WEDM)が採用されました。金型の精度と耐久性のバランスについても、組立と調整を通じて検証が行われました。

これら3つのグループに共通しているのは、単に「形を作る」ことだけに集中するのではなく、「量産の中でいかに機能するか」という点に基づいて設計を構築したことです。工程設計、精度管理、ポジショニングといった要素が生産性と品質に直結するという前提に立ち、彼らは継続的にプロトタイプを作成し、修正を加えました。設計と実際の機械運用との相互作用を通じて、生産現場からの制約が次第に明確になり、量産を見据えた設計マインドセットが形成されました。

産業基盤を強化するためのヒントを提示する教育イベント

この大会は、設計と実務を繋ぐことの重要性を浮き彫りにしました。設計シミュレーション上ではうまく機能していた構造も、実際の加工や組立の過程では、バリ、樹脂の収縮、金属の変形といった要因に影響を受けました。学生たちは自身の取り組みを通じて、金型製作が単なる理論上の試みではなく、一連の工程の上に成り立つ技術であることを具体的に理解しました。

チーム設計の過程において、情報の共有と意思決定は、解決策の技術的な正確さよりもはるかに重要であることが証明されました。厳しい公差を持つ部品を調整する際、修正の理由とその影響を明確に特定し、その情報をチームメンバー間で共有することが、設計精度を向上させる鍵となります。欠陥を分析し、その知見を次なる設計や製造工程に組み込んでいくプロセスは、まさに生産現場における日々の改善活動そのものを反映しています。

第2回ベトナム金型グランプリ 

受賞詳細

第1位(優勝): ダナン工科大学 - DUT-HI

第2位(準優勝): ハノイ工科大学 - SME Joint lab

第3位: ホーチミン市工業大学 - DHCN-HCM

プレゼンテーション賞: ハノイ工科大学 - BKADチーム

技術賞: ハノイ工業大学 - SMAE2

奨励賞(参加賞:

  • ハノイ工業大学 - DCN-SMAE1
  • リータイトー・イノベーション・カレッジ - LIC Moldrise
  • ハノイ地質鉱山大学 - IMAE-MT01
  • 交通運輸技術大学 - CTM73-UTT
  • ダナン工科大学 - DUT-2DQL

教育的な成果が確認された一方で、本大会は別の課題、すなわち「産業界の関与」についても浮き彫りにしました。現在、金型製造においては日越企業間の協力が、また金型を利用するベトナム企業間でもかなりの協力関係が見られます。しかし、金型をベースとした製品の量産計画における日越企業間の連携や、金型を利用する日本企業間での協力は極めて少ないのが現状です。本大会は、後援団体であるベトナム日本商工会議所(JCCI)やベトナム支援産業協会(VASI)の協力を得て、日越双方の企業に広く周知されましたが、参加企業の顔ぶれには依然として多様性が不足しています。

この問題について、日越金型クラブの吉中副会長は次のように述べています。

「優れた金型や製品は、金型メーカー単独では実現できません。金型を利用する企業と製品設計を行う企業が連携して初めて、ベトナムは世界市場で競争力のある製品を生み出すことができるのです。これまでベトナムでは金型を海外からの輸入に頼ることが多く、金型利用企業や量産メーカー側に金型に関する知識が十分に蓄積されてきませんでした。私は、この構造こそが国内の金型技術の発展を妨げている要因の一つであると考えています。」

金型の現地調達率の向上は、ベトナムの製造業が「組み立て中心」から「より高付加価値な分野」へと転換するための鍵となるテーマです。これを実現するためには、資本投資だけでなく、設計・加工・金型製作のプロセスを包括的に理解し、工場現場で直接意思決定ができる、より多様な労働力が必要とされます。今年のグランプリは、学生や若手エンジニアが金型産業の全体像を体験するためのプラットフォームとしての役割を果たすとともに、産業界自らがその役割を再考する機会を提供しました。金型ベースの製品量産を計画する担当者がどこまで関与できるか、これが第3回大会の課題の一つとなるでしょう。第2回大会を経て、大会の方向性はより明確になりました。「金型グランプリ」は単に完成品の品質を競う場ではなく、プロセスそのものを重視し、生産の実践に基づいた思考力と判断力を養う場です。教育と産業を繋ぐ具体的な実証としての本大会の役割は、ますます明確になっています。

 

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